「竜」の話

 10 Feb 2012 04:42:21 pm

辰年にちなんだ話を一つ。

私が絵の専門学校へ行っていた時の講師の先生が話してくれた子供の頃の話です。

その時70才近いお年の先生でしたからそれはそれは昔の事だと思います。
先生がまだ14〜5歳の頃、裏山の峠に有る大きな沼に
その沼の主である大きな竜が住んでいる、と言う言い伝えがあったそうです。
「月夜の晩には、沼に主が現れる」

「確かにその竜を見た」と言う村人も居て、
彼はなるべく暗くなったらその沼には近寄らないようにしていたのでした。

所がある日、彼は峠の向うの村へお使いを頼まれました。
明るいうちに帰ってこられるはずだったのに、予定がはずれて
峠を越える頃には日はとっぷりと暮れ、空にはまあるいお月様が輝いています。

怖い心を抑えて沼の横を走りぬけようとした時、「パシャ」っと大きな水音がしました。
「竜だ!」腰を抜かさんばかりに驚いた彼が音のした方を見ると、
黒々とした沼の水面に1匹の大きな竜が波打つように泳いでいます。

怖さで体は動かず、目は竜に釘付けになり、
暫くの間その竜が泳いでいる様を見ていたのだそうです。

そして、気づいたのです、
月の光にきらきらと輝く竜の鱗が1匹1匹の小さな魚だと言う事に。

小さい魚達が寄り集まり、列を成し、月の光を受け、
まるで1頭の大きな竜のようにうねりながら泳いでいたのでした。


後にも先にも、その竜を見たのはその時限りだったそうです。

「あの光景は年を取った今でも忘れられない。」
そう私達に話してくださいました。

「竜」と聞くと私はその話を思い出します。
そして、私もその竜を見てみたい、と思うのでした。

カテゴリー : General Posted By : tai-chi |